
FileMakerエンジニア

システム開発におけるプロジェクト管理は、納期や品質を守るための「要」とも言える重要な工程です。
- 要件のすり合わせ
- 設計とドキュメント整備
- 開発進行のスケジュール管理
- 品質担保のためのテストとレビュー
- リリース後の運用と保守
開発会社任せにしてしまうと、要件のずれやスケジュール遅延、品質トラブルなどのリスクが高まります。
特に発注者側が「何をすべきか」を理解していないままプロジェクトが進むと、後戻りや追加コストに悩まされるケースも少なくありません。
本記事では、システム開発におけるプロジェクト管理の基礎から、発注者が担うべき役割やトラブルを防ぐためのポイントまでを詳しく解説します。
- システム開発におけるプロジェクト管理の基本
- プロジェクト管理が必要な理由と管理項目
- 開発プロセスごとの具体的な管理場面
- トラブルを未然に防ぐための対策
- 発注者が持つべき役割とマインドセット
はじめてシステム開発に携わる方や、過去に失敗を経験したことのある担当者は、ぜひ最後までお読みください。
目次
1. システム開発におけるプロジェクト管理とは?

システム開発とは、企業の業務課題や目的に応じて、最適なソフトウェアやアプリケーションを設計・実装し、運用していく一連のプロセスです。
しかし、単に技術的な開発作業だけで完結するものではありません。
要件定義から運用までの複数工程をスムーズに進め、予算・品質・納期といった制約条件を満たすためには、全体を統括する「プロジェクト管理(プロジェクトマネジメント)」の存在が不可欠です。
プロジェクト管理とは、システム開発を「計画通りに、無理なく、トラブルなく」進めるために行う、戦略的かつ実務的なマネジメント活動です。
システム開発会社のプロジェクトマネージャー(PM)やチームリーダーが担うことが多いですが、クライアント側も密接に関与すべき領域でもあります。
プロジェクト管理とは、特定の目的(=システム開発の完了)に向けて、決められた期間・予算・人的リソースの中で、品質を確保しながら進めていく管理手法です。
PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)などのフレームワークでも定義されており、計画→実行→監視→完了というサイクルを軸に、以下のような管理項目が含まれます。
- スケジュール管理(納期の調整・管理
- コスト管理(予算の配分・監視)
- 品質管理(テストやレビューによる品質確保)
- リスク管理(想定外の事象への備え)
- コミュニケーション管理(関係者間の情報共有)
これらはシステム開発の各工程において、常に発生する活動であり、プロジェクト全体の円滑な進行に直結します。
2. システム開発でプロジェクト管理が必要な理由

システム開発プロジェクトは、要件定義から運用まで複数の工程をまたぎ、多くの関係者が関わる複雑な取り組みです。
しかも、開発期間が長期に及ぶケースも多く、要件の変更や不測の事態にも柔軟に対応する必要があります。
そのため、プロジェクト管理がなければ、進行が不安定になり、最終的には納期遅延やコスト超過、品質低下といった重大な問題を引き起こしかねません。
- 納期・予算・品質を確実にコントロールするため
- 多数の関係者・タスクを調整する必要があるため
- 要件変更や仕様変更に柔軟に対応するため
- トラブルを未然に防ぎ、品質を担保するため
ここからは、なぜシステム開発においてプロジェクト管理が不可欠なのか、4つの視点から具体的に解説します。
2.1. 納期・予算・品質を確実にコントロールするため
システム開発は、「いつまでに」「いくらで」「どのような品質のものを」完成させるかという明確な目標があります
いずれも、計画通りに管理されなければプロジェクトは成功しません。
納期が遅れればビジネスチャンスを逃し、予算を超過すれば赤字になり、品質が低ければクレームや運用トラブルにつながります。
これらをバランスよく管理するには、計画立案から日々の進捗確認、変更点の調整など、継続的なプロジェクト管理が必須です。
たとえば、初期段階でスケジュールを細かくタスクに分解し、マイルストーンごとにチェックポイントを設けることで、遅延の予兆を早期に察知できます。
また、進行中の工数や支出をモニタリングすることで、予算内でプロジェクトを完了させることも可能になります。
2.2 多数の関係者・タスクを調整する必要があるため
システム開発には、クライアントの業務部門・情報システム部門、開発会社のPM・SE・プログラマー、さらには外部のインフラベンダーやUI/UXデザイナーなど、多くの関係者が関わります。
それぞれの役割や立場が異なるため、認識のずれや情報の伝達ミスが起きやすいのです。
また、開発作業自体も細かいタスクに分かれ、設計・実装・テストなどが同時並行で進行します。
これらの工程を滞りなくつなげるには、スケジュールの整合性を保ち、リソースの過不足を調整し、誰が・いつ・何をするのかを明確にしなければなりません。
プロジェクト管理が行き届いていれば、各タスクの進行状況が可視化され、関係者間の調整もスムーズになります。
逆に管理が甘ければ、例えば「Aチームがまだ終わっていないため、Bチームが着手できない」といった工程間のロスが発生し、全体の進捗が止まってしまいます。
2.3 要件変更や仕様変更に柔軟に対応するため
システム開発の現場では、開発途中で「業務フローが変わった」「新しい法対応が必要になった」「やはりこの機能も追加したい」といった要件変更が発生することは珍しくありません。
特にアジャイル型の開発では、段階的な見直しが前提となることもあります。
こうした変更に対して、適切な影響分析を行い、スケジュールや予算、品質への影響を評価した上で、優先順位をつけて対応するには、明確な管理体制が必要です。
プロジェクト管理がしっかりしていれば、変更を受け入れる体制が整っており、トラブルに発展する前に調整が可能です。
一方で、管理が不十分なプロジェクトでは、変更による影響が把握できず、途中で破綻するリスクすらあります。
仕様変更を受ける際に「どこまで対応可能か」「他への影響は?」といった判断を素早く下すためにも、常に全体の見通しを持ったプロジェクト管理が求められます。
2.4 トラブルを未然に防ぎ、品質を担保するため
システム開発には、バグの混入や設計ミス、テスト不備や予算の使いすぎなど、常にトラブルのリスクがつきまといます。
リスクをゼロにすることは困難ですが、プロジェクト管理によってリスクを想定し、未然に防ぐことは可能です。
たとえば、リスク管理の一環として「想定されるリスク一覧」を初期段階で作成し、それぞれに対して回避策や対応策を用意しておけば、問題が発生してもスムーズに対処できます。
また、定期的なレビューやテストによって品質を維持し、不具合の早期発見にもつながります。
プロジェクト管理の一環として「課題管理表」や「バグ管理票」を運用することで、発生した問題を確実に記録・共有し、対応漏れを防ぐこともできるでしょう。
システム開発にプロジェクト管理が必要な理由は明白です。
納期・予算・品質という制約を守るため、関係者間の連携を強化するため、変更やトラブルに柔軟に対応するため。
いずれも、管理なしでは成り立たない要素です。
プロジェクト管理は単なる「作業の進行確認」ではなく、開発全体を成功に導くための舵取り役なのです。
3. システム開発に必要なプロジェクト管理の項目

システム開発のプロジェクトを成功に導くには、進捗を「なんとなく」管理するのではなく、管理すべき領域を明確にし、それぞれに対して具体的な方法と責任者を設定する必要があります。
プロジェクト管理とは、全体をバランスよく見渡しながら、複数の視点で開発をコントロールする総合的な取り組みです。
- コスト管理
- 品質管理
- 要件管理
- リソース管理
- コミュニケーション管理
ここからは、システム開発において特に重要な6つのプロジェクト管理項目について解説します。
3.1 コスト管理
コスト管理は、プロジェクト全体の予算を守るための基本です。
開発プロジェクトでは、人件費・外注費・ライセンス費・インフラ費など、複数のコスト要素が絡み合っています。
初期見積もりと実際の支出の差異を把握し、必要に応じて調整することで、予算超過を未然に防ぎます。
- 作業工数に対する単価設定と実績の記録
- 月次・週次ベースでの予算消化率のチェック
- 要件変更や仕様追加によるコスト見直し
- クライアントへの報告・承認プロセスの管理
開発が進む中での「見えないコスト」を早期に可視化できるかどうかが、プロジェクトの持続可能性を左右します。
3.2 品質管理
品質管理では、「納品物が想定通りに動作するか」「ユーザーにとって使いやすいか」といった観点で、成果物のクオリティをチェックします。
単にバグがないというだけでなく、要件通りに正しく動作し、業務で使える品質になっていることが求められます。
- 単体・結合・受け入れテストなどのテスト設計
- コードレビューや設計レビューの実施
- バグ管理ツールの活用による対応のトラッキング
- テスト結果の記録と、品質評価指標
品質トラブルはプロジェクト後半に顕在化することが多いため、早期から継続的にチェックし続ける体制が不可欠です。
3.3 要件管理
要件管理とは、クライアントからヒアリングした要望を正しく仕様に落とし込み、プロジェクトを通じてブレさせないための管理です。
要件が曖昧なままだと、開発途中で「思っていたのと違う」というトラブルにつながります。
- 要件定義書や仕様書の作成とレビュー
- 要望の優先順位付けと合意形成
- 要件変更の際の影響分析とスケジュール再調整
- 記録された変更履歴の管理
「何を、どこまで、どのように作るのか」が常に明確になっていることで、手戻りや認識のずれを防ぐことができます。
3.4 リソース管理
リソース管理は、「誰が、どの作業を、どれだけの時間で担当するか」を調整する取り組みです。
開発では人材こそが最大の資源であり、限られた時間内に成果を出すためには、メンバーのスキルや作業負荷を考慮した配置が欠かせません。
- スキルマトリクスを基にしたメンバーアサイン
- 稼働率や残業時間のモニタリング
- 要員交代や休暇時のバックアップ体制構築
- 特定メンバーへの過度な負荷集中の回避
特に、属人化のリスクがあるプロジェクトでは、リソースの分散配置と情報共有が大きな鍵となります。
3.5 コミュニケーション管理
複数の関係者が関与するシステム開発では、情報の行き違いや誤解が致命的なミスにつながります。
コミュニケーション管理では、必要な情報が「正確に」「タイムリーに」関係者に届くように、仕組みとルールを整えます。
- 週次・月次の定例会議の設計
- 開発進捗・課題共有のためのレポート作成
- チャット・ドキュメント・タスク管理ツールの整備
- 承認フローやエスカレーションルートの明確化
情報共有の仕組みを明文化し、全員が同じ認識を持てる状態を保つことが、プロジェクトの円滑な進行に直結します。
属人化を避け、再現性ある情報連携が重要です。
3.6 リスク管理
どんなに計画的に進めていても、開発プロジェクトには常に想定外がつきものです。
リスク管理は、それらの不確実性を事前に洗い出し、対策を立てておくことで、被害を最小限に抑えるための活動です。
- リスク要因の洗い出しと優先順位付け
- 回避策・軽減策の事前設計
- リスク発生時の対応責任者・判断プロセスの明確化
- 定期的なリスクレビューの実施
技術的課題、人員の離脱、ベンダー遅延、要件追加など、発生し得るリスクは多岐にわたります。
だからこそ、想定と備えが必要なのです。
システム開発におけるプロジェクト管理は、単に「スケジュールを守ること」ではありません。
「コスト」「品質」「要件」「リソース」「コミュニケーション」「リスク」。
これらの管理項目がバランスよく行われてはじめて、プロジェクト全体が安定して動きます。
プロジェクト管理はシステム開発の要と言っても過言ではありません。
不安を感じているような場合は、システム開発会社と二人三脚で進めるのが得策でしょう。
4. システム開発のプロジェクト管理が行われる場面

プロジェクト管理というと、「進捗やタスクを一覧で把握する」というような抽象的なイメージを持たれることがあります。
しかし、システム開発におけるプロジェクト管理は、開発の各フェーズにおいて具体的な「管理すべき場面」が存在します。
それぞれの工程で必要とされる管理の内容は異なり、タイミングや目的に応じたアプローチが求められます。
- 要件定義:ユーザー要望を整理する
- 設計:設計仕様を関係者とすり合わせる
- 開発/実装:タスクを管理して開発を進める
- テスト:バグを洗い出して修正を進める
- 運用:リリース後の体制を整備する
ここからは、システム開発における代表的な5つの工程に分けて、プロジェクト管理がどのように行われているのかを具体的に解説します。
4.1 要件定義:ユーザー要望を整理する場面
プロジェクトのスタート地点である要件定義では、クライアントの業務課題や要望を正しくヒアリングし、「システムで何を実現したいのか」「どんな機能が必要か」を言語化・構造化していく作業が行われます。
このフェーズでのプロジェクト管理の役割は、要望の抜け漏れや認識のずれを防ぎ、合意形成をスムーズに進めることです。
- ヒアリング日程の調整と議事録の作成
- 要件一覧の作成と優先順位づけ
- 要件の変更履歴の記録
- 承認から合意までのプロセス管理
要件定義の段階で管理が甘いと、後工程で手戻りが発生し、スケジュールやコストに大きな影響を与えます。
4.2 設計:設計仕様を関係者とすり合わせる場面
要件がまとまった後は、システムの構造や機能、画面設計、データベース設計など、実装に向けた「設計」が行われます。
この段階では、基本設計書や詳細設計書を軸に、開発チームやクライアントとの間で共通理解を形成することが求められます。
- 設計書レビューのスケジュール管理
- フィードバックの収集と反映プロセスの管理
- 設計変更時の影響評価と共有
- 設計内容の承認フロー管理
このフェーズで十分なレビューと合意を得ておくことが、後の「思っていたものと違う」というトラブルを未然に防ぐ鍵となります。
4.3 開発・実装:タスクを管理して開発を進める場面
いよいよ実装フェーズに入ると、エンジニアが各機能を具体的に作り始めます。
開発作業は複数のメンバーによる並行作業で進むため、タスクの割り振り、進捗の可視化、レビューサイクルの管理が重要です。
- タスクの分解と担当者のアサイン
- 進捗状況の可視化
- ソースコードのレビュー計画と実施
- テスト環境や開発環境の運用ルール整備
特にアジャイル開発では、スプリント単位で成果物を積み上げていくため、タスクと進捗の綿密な管理が不可欠です。
4.4 テスト:バグを洗い出して修正を進める場面
開発が完了したら、動作確認や品質保証を目的としたテスト工程が始まります。
テスト工程では、不具合の発見と修正、再テスト、品質判断の基準作成と評価といった活動が行われます。
- テストケースや項目表の作成と実行状況の管理
- バグ報告の受付・分類・優先度設定
- 修正指示のトラッキング
- テスト完了判定の基準管理と品質評価レポートの作成
テストが不十分だと、リリース後に重大な障害が発生するリスクが高まります。
したがって、ここでも管理の徹底が求められます。
4.5 運用:リリース後の体制を整備する場面
システムの本番リリース後は、運用・保守のフェーズに移行します。
ここでは、日常的なトラブル対応や、改善要望への対応、定期的なバージョンアップなどが行われます。
運用体制の整備と問い合わせ対応の仕組み化が、プロジェクト管理の中心となります。
- 問い合わせ・障害受付フローの確立
- バグ・改善要望の管理リスト運用
- SLA(サービスレベル合意)の設定と運用
- リリース後のパフォーマンス監視と定期報告
運用フェーズの品質がユーザー満足度に直結するため、ここでも継続的な管理が求められます。
5. システム開発のプロジェクト管理で起こりやすいトラブル

システム開発のプロジェクトでは、進行中にさまざまなトラブルが発生する可能性があります。
特にプロジェクト管理が不十分な場合、初期の小さなほころびが後半で大きな問題へと発展し、納期遅延や品質不良、追加コストの発生など深刻な事態に発展しかねません。
- スケジュール遅延が発生する
- コミュニケーション不足で認識にずれが生じる
- 仕様の曖昧さによって手戻りや追加コストが発生する
- クライアント側のリテラシー不足による混乱が起こる
ここからは、システム開発において実際に多くの現場で見られる典型的なトラブル事例と、その背景をプロジェクト管理の観点から解説します。
5.1 スケジュール遅延が発生する
最も頻発するトラブルのひとつが、プロジェクトの進捗が当初の計画よりも大きく遅れてしまう「スケジュール遅延」です。
見積もり段階で「2か月で開発可能」と提示されたプロジェクトが、要件定義での議論が長引き、実装が始まったのは実質1か月後。
そこから想定外の仕様変更が重なり、結局納品が3か月遅れになった。
- 見積もり時点での工数や期間の甘さ
- 要件定義の不備による手戻り
- 開発リソースの不足やメンバーの急な離脱
- 意思決定の遅延や仕様変更への対応不足
プロジェクト管理が機能していれば、こうしたリスクを早期に察知し、対策を講じることが可能です。
たとえば、進捗報告の頻度を週次にする、クリティカルパスを常に把握する、進捗が遅れている工程を可視化して再配分するなど、将来を見据えた主体的な対応が求められます。
5.2 コミュニケーション不足で認識にずれが生じる
開発側と発注側の間で、意図や優先順位が正しく伝わっていないと、「聞いていた話と違う」「想定と違うものが納品された」といったずれが発生します。
クライアントが「帳票に印刷機能をつけてほしい」と依頼したが、開発側は「画面表示上での印刷ボタン」と理解。
納品後に「PDF出力してA4サイズで自動調整される機能がない」と問題になった。
- 要件の伝達が口頭やメモレベルで曖昧に行われている
- 各種レビューや報告が形式的で、実質的なすり合わせがされていない
- 定例会議や進捗報告が不定期で情報共有が滞っている
こうしたコミュニケーションの断絶は、認識ずれだけでなく信頼関係の悪化にもつながります。
プロジェクト管理では、報連相(報告・連絡・相談)のルールを明確にし、ドキュメントの管理、定例ミーティングの開催、ツールの活用による情報共有を徹底することが重要です。
5.3 仕様の曖昧さによって手戻りや追加コストが発生する
要件定義や設計段階で仕様が曖昧なまま進んでしまうと、開発の途中で「この機能が足りない」「この画面は想定と違う」といった問題が発生します。
結果として、開発のやり直し(手戻り)や追加開発によるコスト増加が避けられなくなります。
ある業務管理システムで、「顧客データの一括管理」が要件として提示されていたが、実際には「顧客ごとの担当履歴・契約書PDFの管理機能」も必要だった。
しかし要件定義段階で明示されておらず、開発後に追加要望として出てきたため、再設計・追加費用が発生した。
- 仕様書が未完成のまま開発が始まってしまう
- 仕様変更の履歴が正しく記録・共有されていない
- UIや業務フローが抽象的で関係者の理解が一致していない
仕様の曖昧さは、プロジェクトの遅延・追加費用・関係者のストレスといった複数のリスクを引き起こします。
初期段階から仕様を明確にし、変更点は履歴とともに共有・記録することが、スムーズな開発進行の鍵です。
5.4 クライアント側のリテラシー不足による混乱が起こる
発注者がITやシステム開発の知識に乏しい場合、プロジェクトの進行に支障をきたすことがあります。
クラウド型のシステムを開発するプロジェクトで、クライアントが「オンプレミス」と「クラウド」の違いを十分に理解しておらず、リリース直前になって「社内のサーバーにインストールして使いたい」と発言。
構成変更が間に合わず、納期を1か月延期することになった。
- 専門用語や仕様説明を正しく理解できず判断が遅れる
- 不要な仕様追加を要求し、スコープが肥大化する
- 要件定義やレビューの重要性を軽視し、結果的に手戻りが発生する
開発側が専門知識を持っていることが前提ですが、プロジェクトはクライアントと開発会社が協力して進めるものです。
発注者側にも、最低限のシステム理解やプロジェクトの流れに関する知識が必要です。
ここで解説したトラブルは、いずれもシステム開発の現場で頻繁に見られるものです。そして共通しているのは、「プロジェクト管理の不足または形骸化」がその根本原因であることです。
スケジュールや認識。仕様、役割などは、どれも放置すればプロジェクト全体を揺るがす問題になりますが、適切な管理体制があれば、これらのリスクは大きく軽減できます。
6. システム開発のプロジェクト管理で発注者に求められる役割

システム開発を成功させるためには、システム開発会社だけでなく、発注者側の関与も非常に重要です。
プロジェクト管理において発注者が果たすべき役割を明確にし、適切に関与することで、認識ずれや手戻り、品質低下といったトラブルを防ぐことができます。
- プロジェクトの目的とゴールを明確に伝える
- 要件定義に積極的に関与する
- 決定事項に対する意思決定を迅速に行う
- フィードバックや確認作業を期限内に行う
- 社内体制の整備・関係者との調整を行う
- システム開発会社との信頼関係を築く
ここからは、発注者に求められる代表的な役割を6つに分けて解説します。
6.1 プロジェクトの目的とゴールを明確に伝える
システム開発は、単なる機能の実装ではなく「何のために作るのか」という目的と背景を共有することが重要です。
目的が曖昧なままだと、開発側は本質からずれた設計をしてしまう可能性があります。
- 発注者がプロジェクトの背景・目的をきちんと説明する
- 定量的な目標を明示することで設計判断を明確化する
6.2 要件定義に積極的に関与する
要件定義はシステムの成否を左右する重要な工程です。
発注者自身が業務の流れや課題を正確に伝え、どのような機能が必要なのかを開発側とすり合わせる必要があります。
- 現場業務の流れを正確に伝える
- 要件の優先順位を明確にする
- 要件に抜けや矛盾がないかを確認する
6.3 決定事項に対する意思決定を迅速に行う
開発中は、設計や仕様に関する判断が次々と求められます。
意思決定が遅れると、スケジュール全体に影響し、開発の停滞や品質低下につながる恐れがあります。
- 設計・仕様・対応方針などの判断を迅速に行う
- 承認が遅れないよう、社内調整のスケジュールも意識する
6.4 フィードバックや確認作業を期限内に行う
開発側からの確認依頼やテスト結果へのフィードバックを期限通りに行うことは、進行管理上非常に重要です。
確認作業を後回しにすると、手戻りが連鎖的に発生します。
- レビュー依頼や確認作業に迅速に対応する
- 指摘事項の伝達・整理も漏れなく行う
6.5 社内体制の整備・関係者との調整を行う
システム開発は、発注者社内の複数部門が関与するケースも多いため、部門間の調整や意思統一も発注者の大切な役割です。
情報が分断されたままでは、後で深刻な齟齬が生じます。
- 他部門への情報展開・調整を行う
- 部門ごとの要望を統合・整理して開発側に伝える
6.6 システム開発会社との信頼関係を築く
開発会社を「外注先」として扱うのではなく、同じゴールを目指す「パートナー」として接することが、コミュニケーションの質を高め、プロジェクト成功率を大きく高めます。
- パートナーとして建設的な関係を築く
- 問題発生時は原因追及よりも解決に向けた対話を優先する
システム開発は、開発会社だけの責任で進むものではありません。
発注者が「ただ依頼して待つ人」ではなく、「プロジェクトの共同責任者」として行動することで、プロジェクト管理の精度が高まり、トラブルを未然に防ぐことができます。
なお、システム開発における最適なパートナー探しをしている場合は、ぜひ「株式会社プリエ」にご相談ください。
無料相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
7. プロジェクト成功のために発注者が持つべき心構え

システム開発の失敗は、技術的な問題だけが原因とは限りません。
発注者の姿勢やマインドが、プロジェクトの進行や成果に大きな影響を与える場面も多いのです。
- 業務の背景や目的を丁寧に伝える
- 判断を先延ばしにしない
- 違和感があればすぐに共有する
- プロジェクト全体の流れを理解しておく
- 開発会社を対等なパートナーとして接する
- トラブル時は原因より解決を優先する
ここからは、システム開発におけるプロジェクト管理を円滑に進めるために、発注者が意識しておくべき心構えを解説します。
7.1 業務の背景や目的を丁寧に伝える
システムは業務の延長線上にあるものです。
単に「こういう機能がほしい」と伝えるだけでなく、その背景や業務上の課題、目的までを丁寧に共有することで、より現場に合った設計や提案を受けることができます。
この姿勢が、開発会社との認識のずれを防ぐ大きな要素になります。
7.2 判断を先延ばしにしない
意思決定を先延ばしにすると、開発スケジュールが圧迫され、トラブルの原因になります。
「忙しいから後回し」とせず、必要な判断には責任を持って向き合うことが重要です。
特に要件定義や設計の段階での判断遅れは、後戻りのコストを増やす要因となります。
7.3 違和感があればすぐに共有する
プロジェクトの途中で違和感や不安がある場合は、早めに開発会社に伝えることが大切です。
「きっと大丈夫だろう」と放置すると、後で大きなトラブルに発展する可能性があります。
小さな気づきを初期のうちに共有することが、大きな修正を防ぐ鍵になります。
7.4 プロジェクト全体の流れを理解しておく
システム開発にはフェーズごとの役割や制約があります。
全体の流れを把握しておくことで、自身の関与タイミングや責任範囲を理解し、スムーズな連携が可能になります。
特に「どのフェーズにどれくらい時間がかかるか」を理解することが、現実的なスケジュール感の把握にもつながります。
7.5 開発会社を対等なパートナーとして接する
「お金を払っているから言うことを聞け」ではなく、対等な関係として互いに協力する姿勢がプロジェクトを成功に導きます。
無理な要求ではなく、建設的な要望が信頼関係の基盤となります。
協力的な関係を築くことで、柔軟な提案や対応も受けやすくなるでしょう。
7.6 トラブル時は原因より解決を優先する
問題が発生した際に「誰の責任か」を追及するよりも、「どうすれば前に進めるか」を重視する姿勢が、チーム全体に安心感を与え、前向きな解決を促します。
発注者自身が冷静かつ建設的な対応をすることで、開発チームの心理的安全性と信頼が強化されます。
発注者が「待つ側」ではなく「共に作る側」の意識を持つことで、開発会社との信頼関係が深まり、プロジェクトはより円滑に進行します。
正しい心構えが、開発を成功に導く原動力にもなるでしょう。
8. システム開発のプロジェクト管理を成功させるポイント

プロジェクトの成功には、発注者と開発会社の双方が役割を果たすだけでなく、プロジェクト全体を俯瞰しながら成功させる工夫を盛り込むことが欠かせません。
- 初期段階での期待値すり合わせと合意形成
- 開発会社とのパートナーシップ構築
- 開発側とクライアント側で役割を明確にする
- 定期的なレビューと柔軟な対応
- 納品後の保守・運用フェーズまで見据えた設計
ここからは、システム開発を円滑に進め、トラブルや遅延を未然に防ぐためのポイントを解説します。
8.1 初期段階での期待値すり合わせと合意形成
プロジェクトの初期段階では、発注者と開発会社の間で「完成イメージ」「対応範囲」「優先度」などを明確にしておくことが重要です。
これが曖昧なまま進行すると、進捗に対する評価がずれたり、納品物に対して不満が生じたりする原因になります。
- 仕様や成果物のレベル感を共有する
- 対応しない範囲(非対応事項)も明示する
- 双方のリソース・役割分担について合意する
これらを文書に残すことで、後々のトラブルを防ぎ、共通認識のもとでプロジェクトが進行します。
8.2 開発会社とのパートナーシップ構築
開発会社を「外注先」と捉えるのではなく、課題解決に向けた「共創パートナー」として関係を築くことが、プロジェクト成功の鍵です。
- 定例ミーティングなどでの意見交換の場を設ける
- 成果物だけでなく、プロセスへのフィードバックも意識する
- トラブル時も建設的に協力する姿勢を持つ
対等な立場で信頼関係を構築することで、課題やリスクも率直に共有しやすくなります。
8.3 開発側とクライアント側で役割を明確にする
「どちらがどこまでやるか」を明確にしておかないと、対応漏れや責任の押し付け合いが発生します。
- プロジェクトにおける各ステークホルダーの役割を明示
- 情報共有・承認フローを整備しておく
- 対応の遅れが他工程にどう影響するかを理解する
決裁、資料提供、社内調整など、発注者側のタスクを明文化し、誰が担当するのかを事前に定めておきましょう。
8.4 定期的なレビューと柔軟な対応
設計や実装が進んだ後に「思っていたのと違った」となるのは、レビューや合意形成が不十分な証拠です。
定期的に成果物をレビューし、必要に応じて仕様の微調整を行いましょう。
- フェーズごとの節目で進捗レビューを実施
- 要望の変更が発生した場合の対応ルールを明確化
- 「100点」を目指すより「納期・目的達成」を重視した柔軟性を持つ
定期的に成果物をレビューし、必要に応じて仕様の微調整を行いましょう。
8.5 納品後の保守・運用フェーズまで見据えた設計
システムはリリースして終わりではありません。
運用や保守に入ってからも使い続けられる設計であることが大切です。
開発段階から「誰が運用するのか」「どう引き継ぐのか」を視野に入れておくと、納品後の混乱を防げます。
- 運用マニュアルや引き継ぎ資料の整備を事前に計画
- メンテナンス性や拡張性を考慮した設計を依頼
- サポート窓口や対応体制の確認も忘れずに行う
開発段階から「誰が運用するのか」「どう引き継ぐのか」を視野に入れておくと、納品後の混乱を防げます。
システム開発は、一気に進むものではなく、日々の意思疎通や対応の積み重ねが成果を左右します。
紹介したポイントを意識しながらプロジェクトに臨むことで、無駄なトラブルを避け、納期・品質・満足度の高い結果を得ることができるでしょう。
9. システム開発のプロジェクト管理なら「ブリエ」

システム開発の成功には、技術力だけでなく、丁寧なプロジェクト管理と発注者との信頼関係が欠かせません。
「ブリエ」では、要件整理から開発、保守運用まで一貫して対応し、クライアントと伴走するプロジェクト管理を徹底しています。
「開発会社に任せきりにして失敗した経験がある」
「初めての開発で何をどう進めればいいかわからない」
そんなお悩みがある方は、ぜひ一度ブリエにご相談ください。
経験豊富なエンジニアが、事前準備から納品後のフォローまでしっかりサポートします。
10. まとめ
- 開発全体の進行と品質を統括するマネジメント機能
- スケジュール、コスト、品質の3要素をバランスよく管理
- 「やるべきこと」だけでなく「どう進めるか」の仕組みを整備
- プロジェクトの方向性や優先順位を整理する役割も担う
- 要件定義〜運用まで、各フェーズで求められる管理項目が異なる
- 設計やテストなどの場面では、特に粒度の高い確認が必要
- 工程を跨いだ見通しと計画が、全体の滑らかな進行を支える
- それぞれのフェーズで異なるリスクがあるため、個別に対処が必要
- 迅速な業務背景の説明や判断
- 積極的なコミュニケーション
- トラブルや違和感の初期段階での共有
- 自社内の情報整理や決裁ルートの明確化
- 定例会議やレビュー体制の設計
- 情報共有のルール整備とツール導入
- 仕様の明文化と履歴管理による手戻り防止
- スケジュールやコストの変動に備えた事前のリスク洗い出し
- 対等な姿勢が、円滑な意思疎通と提案の受け入れを促進
- 責任追及よりも「どう前に進めるか」の姿勢を持つ
- 無理な要求ではなく、相互に歩み寄る姿勢が成果を左右する
- 継続的な改善提案を受け入れる風土が、長期的な成功につながる
- 保守や問い合わせ対応も含めた長期視点で設計を行う
- 納品後も安定して運用できる体制をあらかじめ整える
- ランニングコストや業務負荷も考慮して設計に反映
- ユーザーからのフィードバックを反映できる改善サイクルの確立
システム開発におけるプロジェクト管理は、スケジュールや品質、コストを守るためだけの作業ではなく、プロジェクトの成功を左右する重要なマネジメントです。
発注者も「任せきり」ではなく、プロジェクトの一員として積極的に関わることで、認識のずれやトラブルを未然に防ぐことができます。
この記事を参考に、より良い開発体験と成果を目指していただければ幸いです。

株式会社ブリエ代表取締役。Webデザイン、WordPress、Elementor、DTPデザイン、カメラマンなどを経て、FileMakerエンジニアとなる。企業の経営課題であるDX化、業務効率化、ペーパーレス化、情報の一元管理など、ビジネスニーズの変化に合わせてFileMakerで業務システムを開発し、柔軟に拡張して解決いたします。